フェイスブックが仕掛けたエージェンシーへの新しいエンゲージメント

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■ ニューヨークで、初のイベントを開催。その心は?

去る5月12日にニューヨークのソーホーロフトスペースで開催されたフェイスブックの1日イベントに、エージェンシーの代表として参加した。これはフェイスブックがホストした初めての記念すべきイベントとなった。会場には200名を超えるアメリカ国内のストラテジストやクリエーターたち、広告主サイドからもマーケターやソーシャルメディア担当者たちが集まった。彼らとは一緒にランチをする機会があったが、日本からの来場者はなかったように思う。

フェイスブックからは10名を超えるプレゼンターが登壇し、夫々が専門領域についてレクチャーを行った。どれも興味深い内容で、フェイスブックユーザーインサイトをはじめ、プラットフォーム、クリエイティブツールボックス、アプリケーションデベロップメントと授業は続いた。最後には、200名の参加者を各10人ずつのチームに分けて、1つの課題に対して皆でアイデエーションとエクゼキューションを競うワークショップもあり、盛りだくさんの1日であった。

何が「初めてか」、そして何が「記念すべきイベント」なのかというのが肝である。初めてのイベントと形容されたのは、彼らの新しいサービスであるフェイスブックスタジオライブをエージェンシーに売り込む最初の機会となったからである。フェイスブックスタジオライブは、2011年4月に発表されたエージェンシーのためのサービスで、フェイスブックを絡めたキャンペーンを投稿し、競い合い、切磋琢磨していく場となっている。イベント会場では、ナイキ、アメリカンエクスプレス、エムアンドエムズ等の事例が取り上げられた。既にカンヌやクリオではフェイスブックのカテゴリーが設けられ、ワンショーでも開設されることがこの会で発表された。

記念すべきイベントであると私が感じた理由は何であろう?フェイスブックが、エージェンシーに対して歓迎の姿勢を打ち出したことに他ならない。ここで、フェイスブックのセールス担当副社長の言葉を紹介したい。私にとってはインパクトのある台詞であった。彼は冒頭にこう宣言した。“Facebook likesAgency.”これを聞いた瞬間の私の第一印象はこうであった。一つは、急成長のこの時期に私たちエージェンシーに歩み寄る必要があるのか? もう一つは、エージェンシーと組む方針を打ち出すことで、多くの広告嫌いのユーザーたちのフェイスブック離れの誘因にならなければ良いが、ということであった。

彼は次にこう続けた。「私たちは最新のテクノロジーを提供しているだけです。ブランドのために、それをどのように使うかはエージェンシーの皆さんの手に委ねられています。」


■ 果たして、Agency Likes Facebookとなるか?

フェイスブックユーザーは現在7億人である。チュニジアの政権崩壊に貢献したツールとしてノーベル平和賞を取る勢いであり、米国の50歳以下の96%がフェイスブックを使っているとの報告もある。アメリカのEマーケターによれば、昨年のソーシャルネットワーキングサイト米国全体の広告費用は16.8億ドル。今年は20億ドルを超えると予想されている。マイスペースが勢いを落とし、ツイッターが広告モデルを開始する中で、フェイスブックはその半分の額を稼ぎだしている。

しかしながら、オンライン広告にまで範囲を広げると、ヤフーには追いついたもののグーグルのアドワーズの収入には及ばない。ちなみに、2009年のオンライン広告収入の割合をみると、グーグルは全体の約30%で、フェイスブックを含むソーシャルネットワークサイト全体が4%となっている。今年はそれが10%を超えると見られており、上げ潮の勢いだ。冷静になって考えれば、この時期にフェイスブックがエージェンシーを仲間につけ、一気にグーグルに追いつこうというのは 自明の理である。アメリカのグーグルからフェイスブックに転職した知人が呟いていた言葉を思い出す。「今回、新しいプロジェクトにアサインされたのだけど、要はもっと儲けられる広告手法を考えなければならないということなんだ」そして、それを売ってくれるのが、エージェンシーというわけである。

私が感じた二つ目の疑問。フェイスブックにこれ以上広告が増え続けるとファン離れがおきるのではないか? 私の友人のコピーライターが、ある日ウォールに投稿した言葉が印象的だった。「私がちょっとエアロビクスのことをウォールに書いたら、すぐに24フィットネスのスポンサー広告が出て、、、こういうのってちょっとうざいと思わない?」それに対し、若い女性のプランナーがすぐさま呼応した。「たぶんペニスの話をしたら、すぐにポルノビデオの広告がでるわよ」。私は笑ってLikeを押した。

私のフェイスブックページには、会社オーナーが集まるニューポートビーチでのネットワーキングの会やマーク・ザッカーバーグ氏の講演についての広告がタイミングを見計らったように出てくる。ちょっとあざとくてヘソを曲げたくなる気もするのだが、実際は両方とも迷わずクリックしてしまった。なぜなら、それが私の興味をひくものだったからである。

グーグルのアドワーズ広告を、検索に慣れるにつれクリックしなくなったように、フェースブックの広告が飽きられるのも時間の問題かもしれない。しかし、彼らは極めて精度の高いターゲティングアドを用意しており、それは日々進化を遂げ、まさにブランドエンゲージメントにとって有効なタッチポイントとなっている。エージェンシーがこれをLikeしない手はない。


■ ブランドエンゲージメントに必要なこと。それはストーリー。

ニューヨークのソーホースタジオには、ザッカーバーグ氏こそ登壇しなかったが、そのメッセージは十分にスタッフに受け継がれていた。氏が考えた今回のイベントのテーマは、業界では馴染みのある言葉、Hack(ハック)である。その日配られたペンやTシャツやポスターにはその文字がハードロック調に刻まれていた。この言葉は、彼らのカルチャーを代表する一語である。登壇したエンジニアの一人は、フェイスブックがもつハッカーカルチャーについて語った。とても象徴的なエピソードがあったのでそれを紹介したい。

「フェイスブックのオフィスにはいくつものサインが掲げられています。ひとつは”Fail Harder”であり、もうひとつは、”Move fast and break things”。どちらも歴史の長い日本企業にはない考え方である。前者は「激しく失敗しろ」であり、後者は「待つな、打ち破れ」と訳したい。これは彼らエンジニアチームの社内的なモットーであり、Hack Cultureを表現したフレーズである。

「ある日、ニュースフィードをもっと会話を楽しめる場所にできないか、と考えたインターンがいました。彼のアイデアはユニークでした。私たちもそれを面白がって、彼に早くやってみるように伝えました。彼は通常よりもとても速く仕事を進めましたが、小さなミスを犯しました。そして、5分後。ニュースフィードを表示するスクリーンは完全にシャットダウンしてしまったのです。既に数千万にものユーザーがいたフェイスブック上のことです。なんとか皆で力を合わせ、復活させた時には、5時間が経っていました。彼には屈辱的なできことでしたが、それは私たちにとって、とても愉快なできことでした。というのも、彼は、失敗するプロセスを学び、それがフェイスブックでは何を意味するか学んだからです。その後、そのインターンは首になったと思いますか?」

いいえ、彼は私たちの一員になりました、と壇上のエンジニアは誇らしげに答えた。「なぜなら、フェイスブックが何よりも人々にインパクトを与えられる場だと悟ることができたからです」

私はそのストーリーを聞きながら、いつのまにか彼らのカルチャーに共感するひとりとなっていた。つまり、彼らは何がブランドエンゲージメントに必要なことなのか、その専門家である私たちに教えてくれたのである。


■ フェースブックはマーケティング3.0を推し進めるツールである。

イベントの最後は、Hack-a-thon(ハッカーソン)と呼ばれるワークショップが行われた。ハッカーソンとは造語であるが、彼らのプログラマーが実際に行っている社内イベントの名前でもある。そのマラソンレースに似たイベントは、通常は24時間ぶっ通しで行われる。今回の私たちが参加したハッカーソンは、レズやホモといった人たちをどうやって差別から守るかというテーマで、アイデエーションを恊働することとなった。フェイスブックを使ってどのようにキャンペーンをインテグレートするかというのが課題である。

異なるエージェンシーの異なる専門家が意見をぶつけ合い、1時間半で結論を見いだすのがゴールであったが、その制限時間の中で皆が必死にアイデアを捻り合った。そう、結果的に、ラブコールならぬライクコールを送られた私たちは、知らないうちにフェースブックのために働く一員となっていたのである。もちろん、私たちはフェイスブックのために働いていたのではない、差別を受けている人々にとって良いことをするためにアイデアを考えていたのである。そのためには、フェイスブックは欠かせないツールなのだ。

私がこのイベントから帰宅し、フェイスブックのヘビーユーザーである高校生の娘に聞いた最初の質問はこうである。「フェイスブックって、そのうち皆に飽きられると思う?」娘はモバイルでフェイスブックしながら即答した。「そうね、このままファンクションが進歩しなかったら飽きられると思うよ」フェイスブック社内に貼られている看板のひとつのキャッチフレーズはこうだ。”This journey is 1% finished.” 若き創業者と二千数百名人の社員の飽くなき追究は今始まったばかりであり、エージェンシーとフェイスブックの恊働マーケティングの火は灯されたばかりである。

ワイズアンドパートナーズ エクゼクティブ・クリエイティブディレクター 結城喜宣(宣伝会議7月1日
号に寄稿)

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